気候ゼミでは中国内モンゴル自治区を対象に、砂漠化に関する気候変動の研究を行っています。内モンゴル自治区には森林から砂漠まで多様な土地被覆が存在し、砂漠化や地球温暖化のような人間活動に関わる環境変化の影響を大きく受ける地域のひとつです。このような地域において、人間と環境とのかかわりを把握することや環境変化をもたらす要因を解明することは、地球環境が将来どう変化するのかを予測することや自然環境と調和し持続可能な発展をするための方法を見出すことに貢献すると考えています。
今回は6月22日から28日にかけて、内モンゴル自治区の首府・フフホト(呼和浩特)市および武川県周辺で、砂あらしの発生過程を解明するためのデータ収集などを行いました。参加者は境田先生、M2の加藤、M1の坂下、咏梅の4名です。
大豆舗や五福号村の位置 | 武川県の農村風景 |
調査対象地のフフホト市および武川県は東西に長い内モンゴル自治区のほぼ真ん中に位置しています。定点カメラを設置した五福号村と気象観測装置を設置している大豆舗のおよその位置を左図に示します。右の写真は武川県の農村風景を撮影したものです。
武川県に隣接する四子王旗での砂塵暴発生日数は年平均2日程度と多くはありませんが、砂漠ではないこのような半乾燥地域で、砂あらしの実態はまだよく調べられていません。そこで今回、気象観測も行っている武川県で砂あらしの観測を行うことになりました。
ちなみに、砂塵暴(さじんぼう、中国では『沙塵暴(シェーチェンバオ)』と書く)とは、「風により地表の砂塵が大量に巻き上げられ、水平視程が1km以下となる大気現象」と定義されており、しばしば強い風をともないます。
フフホトに到着した翌日にまず、大豆舗の郷役場を訪れ、ここに設置している気象観測装置からデータを回収しました。時おり雨の降る天気でしたが、装置のメンテナンスも行います。 この装置を管理してくださる役場の職員さんにはいつもお世話になっています。 |
定点カメラは五福号村の村長さん(真ん中の男性)にご協力を得て、お宅に設置させていただきました。写真左側の扉の上部に固定してあります。 このカメラは日の出ている現地時間午前6時から午後6時まで、1時間間隔で風景を撮影し、その画像データをメモリに保存するように設定されています。データを回収しに行くときはいつも、ちゃんととれているかドキドキ。。。 |
フフホトに戻り、砂あらし研究の権威である現地の先生とお会いし、お食事を共にしました。中国での砂塵暴の頻度や研究動向などについてお話を伺ったり、こちらから質問したりと活発な議論となりました。 文献やインターネットからの知識だけでなく、研究者に直接お会いしてお話しすることも、研究への刺激になると感じました。 |
五福号村の定点カメラに記録されていた画像をチェックした結果、5月10日に砂塵暴が発生している瞬間をとらえることができました!
静穏時の風景(5月27日10時) | 砂塵暴発生時の風景(5月10日15時) |
中央の木々のすぐ右奥に写る林までがちょうど1kmである。 |
1km先の林が砂塵で見えなくなっている。 |
設置した定点カメラの前には普段、左のような晴れて穏やかな風景がひろがっていることが多いのですが、5月10日15時には右写真のように大気中の砂塵で視程が1km以下となる砂塵暴が観測されました。カメラ保護のために巻いてあったビニールが強風でなびく様子も写っています。
このとき大豆舗で観測していた同期する風速、気温、気圧およびこの日の地上天気図を下に示します。
↑5月10日に大豆舗で観測された風速の変化 | |
↑5月10日の大豆舗の気温と海面気圧の変化 | 5月10日の地上天気図(気象庁より) |
大豆舗で観測している気象データから、砂塵暴が観測された現地時間午後3時には、最大風速が13m/sに達したことがわかりました。また、砂塵暴発生直前の気温の急激な低下と昼頃にかけての気圧の低下が見られました。この日午前8時(現地時間)の地上天気図には、武川県の北方、モンゴル高原上空に中心をもつ低気圧があり、今回の砂塵暴はこの低気圧のもたらす寒気流によって吹く強い風によって発生したと考えられます。
しかし、観測期間中すべての強風時に、砂塵による視程の低下がカメラによってとらえられていたのではないことから、砂あらしの発生には風速以外の要因が関係しているものと思われます。今後、より詳細にデータを解析して、砂あらしに関わる他の要因(土壌水分や低気圧の経路など?)について検討し、なぜ5月10日にだけ砂塵暴が観測されたのかを明らかにすることが課題です。
草原を訪れた時の写真です。見渡す限りの草原が広がり、とても気持ちがいいのですが、今年は例年より雨が少なく、草の生育も普段よりだいぶよくないそうです。 | |
モンゴル民族はお酒の席で歌って楽しむのが大好きです。エレクトーンの伴奏に合わせて、声量豊かな歌手の方が歌ってくれるだけでなく、だれもが歌を歌う習慣があるようです。また、今回は馬頭琴の生演奏を間近で聴け、とてもいい経験になりました。 |