8.海洋島ドロマイトの起源と成因の解明

ドロマイトとは

 ドロマイト(dolomite)とは三方晶系の炭酸塩鉱物であり,化学式はCaMg(CO3)2で表されます.ドロマイトは地質時代の炭酸塩岩中に広く認められ,通常は,カルシウムイオンを過剰に含むものが多く認められます.ドロマイトはこれまで多くの研究者によって岩石学的,あるいは地球化学的に研究され,蒸発岩を伴うごく一部のものを除いて,大部分は石灰岩が堆積後に続成作用(ドロマイト化作用)を被って形成されたものであると考えられています.ドロマイト化作用に関してこれまで数多くのモデル(蒸発性ドロマイト化作用, 混合水帯ドロマイト化作用, 海水ドロマイト化作用,埋没ドロマイト化作用,熱水ドロマイト化作用,有機ドロマイト化作用など)が提唱されてきました.しかしながら,常温・常圧下での実験によるドロマイトの生成に未だ成功していないため,その成因に関しては不明な点が多く残されています.


ドロマイトでできた島

 フィリピン海プレート上の海洋島である北大東島では,地表から地下約100 mまでの範囲に分布する礁性石灰岩がドロマイト化作用を被っています.私達は,綿密な地質調査を行なうとともに,地球化学および結晶化学的手法に基づいて,北大東島のドロマイトの起源と成因を明らかにする研究を行ってきました.


 

北大東島江崎港で造礁サンゴの組成を調査している井龍先生.(写真では,井龍先生が露頭中の「ドロマイト」を口説いているようにみえますが,(本人曰く)決してそのようなことはやっておりません)



北大東島表層におけるドロマイトとカルサイトの分布.ドロマイトとカルサイトの比率は露頭間で大きく異なっています.Suzuki et al.(2006)を改変.



ドロマイトの薄片写真.菱形をしたドロマイトの結晶(矢印)が多数認められます.“C”は,ミクライト皮膜のみを残したサンゴ化石です.Suzuki et al.(2006)を改変.



ドロマイトの晶出履歴の解明

 X線回折(XRD)分析は岩石の鉱物組成を調べる手法の一つであり,回折パターンとXRDピークの角度(2θ)から,その試料に含まれる鉱物の種類を特定したり,さまざまな結晶学的な情報を得ることが出来ます.ドロマイトのXRD分析では,マグネシウム含有量が多いドロマイトほど,回折ピークの位置が高角側にずれることが知られています.また,マグネシウム含有量が異なる複数種のドロマイトの結晶が混合している場合,ひとつの回折ピークは,複数のより小さなピークが重なり合ったものとなります.このように重なり合ったピークを分離する解析を行なうことにより,マグネシウム含有量が異なる(=晶出履歴が異なる)ドロマイトの結晶が何種類含まれているのかを知ることができます.その結果,島の地表のドロマイトに少なくとも4つのphase(晶出履歴)が,コア試料のドロマイト(地表〜掘削深度50 mの2.0 Maにドロマイト化した部分と,掘削深度50〜100 mの5.5 Maにドロマイト化した部分のそれぞれ)には少なくとも3つのphasesが認められることが明らかになりました.


マグネシウム含有量の異なる4つのphaseが認められる地表のドロマイト試料.ドロマイト結晶の(018)面と(116)面のX線回折分析結果(左)と回折ピークの分離結果(右)を示す.Suzuki et al.(2006)を改変.



 ドロマイト結晶中における,カルシウムとマグネシウムの量比を調べるためには,SEMによるバックスキャター像(BSE)観察も有効な手段です.これは,カルシウムがマグネシウムよりも原子量が大きいため,カルシウムに富むドロマイトは明るい像を示すという原理に基づきます.2つのphase(phaseⅡとphase Ⅳ)が認められたドロマイトのBSE像は,菱形の結晶中において,縁辺部に比べて中心部の方が明るいことが分かりました.これは,結晶中心部がカルシウムに富み(phase Ⅱ),縁辺部はマグネシウムに富む(phase Ⅳ)ことを示しています.これらのことから,phase IIの晶出がphase Ⅳの晶出よりも先行することが明らかになりました.


2つのphase(phase Ⅱとphase Ⅳ)が認められたドロマイトのBSE像.菱形のドロマイト結晶の中心部(c)は明るく,縁辺部(r)は暗い像を示す.Suzuki et al.(2006)を改変.



 また,XRD回折分析で認識された4つのphaseのうち,大多数の試料で認められるphase IIとphase IVのみが認められるドロマイトに着目し,それらのマグネシウム含有量と酸素同位体比,マグネシウム含有量と微量元素含有量(ストロンチウム・ナトリウム)を比較した結果,リニアな相関関係が認められました.これらの関係を表すグラフからは,マグネシウム含有量が少なく,ストロンチウム・ナトリウム含有量が多く,酸素同位体比の軽いphase IIと,マグネシウム含有量が多く,ストロンチウム・ナトリウム含有量が少なく,酸素同位体比の重いphaseⅣがエンドメンバーをなしており,リニアな相関関係は試料中のphase IIとphase IVの混合比が異なることに起因することが判読できます.このことから,北大東島のドロマイトは異なるphaseがさまざまな割合で混合したものであることが明確になりました.また,各phaseのドロマイトの微量元素含有量と炭素・酸素同位体組成の平均値を計算で求めた結果,それぞれのphaseのドロマイトは独自の組成を示したことから,各phaseは異なる組成の母液から晶出したことが明らかになりました.


2つのphase(phase IIとphase Ⅳ)のみからなるドロマイト岩石試料における,全岩の酸素同位体組成とマグネシウム含有量,ストロンチウム含有量とマグネシウム含有量の関係.Suzuki et al.(2006)を改変.



ドロマイト化作用のタイミングと気候変動との関係

 近年,各地質時代のドロマイトの存在量は,地球規模の気候変動と関係があることが指摘されています(例えばSun, 1994).北大東島の地表とコア試料から得られたドロマイトの化学組成と酸素同位体組成から,ドロマイト化作用を引き起こした母液の酸素同位体比を求めた結果,すべてのphaseのドロマイトは,汎世界的な海水準の低下時に海水ドロマイト化作用によって生じたことが明らかになりました.しかしながら,北大東島のようにドロマイト化のメカニズムやタイミングが詳細に明らかにされている地域は限られており,地球規模での環境変化とドロマイト化作用の関係を明らかにするためには,今後さならるデータの蓄積が必要です.

 
研究内容の紹介

参考文献


  1. Suzuki, Y., Iryu,Y., Inagaki, S., Yamada, T., Aizawa, S. and Budd, D. A. (2006) Origin ofatoll dolomites distinguished by geochemistry and crystal chemistry: Kita-daito-jima, northern Philippine Sea. Sedimentary Geology, 183, 181-202.