東北大学大学院理学研究科地学専攻地圏進化学講座 炭酸塩堆積学・地球化学グループ Laboratory for carbonate sedimentology and geochemistry Department of Earth Science, Tohoku Univ.

 1.古環境指標としての無節サンゴモ

    Paleoenvironmental proxy for coralline algae

無節サンゴモとは

 サンゴモ類は細胞壁に高マグネシウム方解石を沈着させ,藻体を岩石のように堅くする特異な藻類(紅藻)であり,熱帯から寒帯まで,潮間帯から透光帯下限までの広い範囲に分布しています.サンゴモ類は石灰化していない膝節をもつ有節サンゴモと,膝節をもたない無節サンゴモに大別でき,無節サンゴモには皮殻型から樹枝状・リボン束状のものなど,様々な形態のものがあります.サンゴ礁において,有節サンゴモは主に砂粒や細礫の生産者であり,無節サンゴモは砂粒・礫のほか原地成礁岩の形成に関与しています.

 サンゴモ類は,従来カクレイト目サンゴモ科とされており,膝節の有無,四分胞子嚢生殖巣の胞子放出孔の数や形成様式で隣り合う細胞列糸の連絡様式が細胞融合によるか第二次連絡孔によるかにより6亜科にわけられ(Johansen, 1976),各属は栄養組織の細胞配列様式を重視して定義されていました.現在では,サンゴモ類すべてをサンゴモ目とし(Silva and Johansen, 1986),分子系統に基づいてSporolithaceae,Corallinaceae,Hapalidiaceae の3つの科に区分しています.Corallinaceae は,Corallinoideae,Metagoniolithoideae,Mastophoroideae,Lithophylloideae という4つの亜科に,Hapalidiaceaeは,Austrolithoideae,Choreonematoideae,Melobesioideae という3つの亜科に細分されています.

モルッカイシモ Lithophyllum tamiense

Hydrolithon murakoshii の四分胞子嚢生殖巣の縦断面

古環境指標としての無節サンゴモ

 1970 年代のAdey らの一連の研究(Adey, 1979 など) ではサンゴモの属により深度帯を識別できると指摘されたが,いろいろな海域の短い報告を総合してイメージを語るに終わっていました.Iryu (1992) は,琉球に分布する第四紀更新世のサンゴ礁性堆積物である琉球層群に含まれる無節サンゴモ化石を検討し,それらと現在の琉球列島の周辺海域における無節サンゴモ群落との比較検討により,堆積物中の無節サンゴモ化石を実際に古水深指標として確立した初めての研究となりました.浅海相中の無節サンゴモ化石は4つの群落により特徴づけられ,それぞれの化石群落から古水深が推定されます.

サンゴモ球の断面

座間味沖水深105mでみられるサンゴモ球

 世界各地の新生代の炭酸塩岩中には,主に無節サンゴモと被覆性底生有孔虫(Acervulina inhaerens) からなる直径数cm のノジュールであるサンゴモ球(Rhodolith) 化石が多く含まれています.サンゴモ球化石が全岩の体積の20%以上を占める石灰岩は石灰藻球石灰岩と呼ばれ,その堆積環境については,礁原( 沖縄第四紀調査団,1976)や比較的浅い水路からやや深い礁斜面(Minoura and Nakamori, 1982)と解釈されていました.これに対し,野田(1976, 1984) はこの岩相をサンゴ礁の沖合相であると推論しました.井龍(1984) は多良間島近海陸棚より採取したサンゴモ球試料を検討し,沖永良部島の層位学的研究結果と合わせて,石灰藻球石灰岩は水深50〜150m の陸棚の堆積物であると論じましたが,この見解は当初,国内の古生物学者・藻類学者の双方から疑問

視されました.しかしその後の一連の調査・研究により,琉球列島の島棚には琉球層群の石灰藻球石灰岩に含まれるサンゴモ球と同様のものが普遍的に分布することが証明されました.

 このように古環境指標として有用な無節サンゴモは,新生代の炭酸塩堆積物の構成要素として重要であり,造礁サンゴと併用することにより,潮間帯から透光帯下限近くまでの範囲で形成された炭酸塩堆積物の堆積環境を復元することが可能です.

現在の沖縄本島周辺のサンゴモ球分布

参考文献

✦ Adey W. H. (1979) Crustose coralline algae as microenvironmental indicatora for the Tertiary. Gary J. and Boucot A. J. (eds.), Historical biogeography, Plate Tectonics, and the Changing Environment, Oregon States Univ. Press, Corvalli, 459-464.

✦ Harvery, A. S., Broadwater, S. T., Woelkerling, W. J. and Mitrovski, P. J. (2003) Choreonema (Corallinales, Rhodophyta): 18SrDNA phylogeny and resurrection of the Hapalidiaceae for the subfamilies Choreonematoideae, Austrolithoideae, and Melobesioideae. Journal of Phycology, 39, 988–998.

✦ 井龍康文 (1984) 琉球列島における現生石灰藻球の発見とその意義. 琉球弧南端海域の海洋環境に関する総研速報. 1, 47-55.

✦ Iryu Y. (1992) Fossil nonaeticulated coralline algae as depth indicators for the RyukyuGroup. Trans. Proc. Palaeontol. Soc. Japan. 167, 1165-1179.

✦ Johansen H. W. (1976) Current status of generic conepts in coralline algae  (Rhodoph-yta). Phycologia. 15, 221-244.

✦ Minoura K. and Nakamori T. (1982) Depositional environment of algal balls in the Ryu-kyu group, Ryukyu Islands, southwestern Japan. J. Geol. 90, 602-609.

✦ 野田睦夫 (1976) 与論島の琉球石灰岩. 地質学雑誌. 82, 367-381.

✦ 野田睦夫 (1984) 沖永良部島の琉球石灰岩( その2). 堆積相. 地質学雑誌. 90, 319-328.

✦ 沖縄第四紀調査団 (1976) 沖縄および宮古群島の第四系. とくに” 琉球石灰岩” の層序について. 地球科学. 30, 145-162.

✦ Silva P.C. and Johansen H. W. (1986) A reapperaisal of the order Corallinales (Rhodop-hyta). Brit. Phycol. J. 21, 245-254.

✦ Verheij E. (1993) The genus Sporolithon (Sporolithaceae fam. nov., Corallinales, Rhodo-phyta) from the Spermonde Archipelago, indonesia. Phycologia. 32, 184-196.

 

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