東北大学大学院理学研究科地学専攻地圏進化学講座 炭酸塩堆積学・地球化学グループ Laboratory for carbonate sedimentology and geochemistry Department of Earth Science, Tohoku Univ.

  10.高知県室戸岬一帯に分布する温帯岩礁性炭酸塩岩の堆積学的研究

       Temperate carbonates in Muroto-misaki, Kochi Prefecture

室戸岬付近でみられる完新世に形成された温帯岩礁性炭酸塩岩の堆積学的研究

はじめに

 私たちの研究室では,法政大学文学部地理学科の前杢英明先生との共同研究として,室戸岬付近でみられる完新世に形成された温帯岩礁性炭酸塩岩の堆積学的研究を行ってきました.

 陸域の隆起速度が速いことで知られている室戸岬近辺には,海棲付着生物の石灰質殻よりなる石灰岩が,標高0〜9 m付近の岩礁に多数貼りついています.本石灰岩は主にカンザシゴカイの棲管や石灰藻,コケムシ,軟体動物,サンゴといった生物殻から構成されています.これらの石灰岩中の化石の鉛直分布を現生種の帯状分布パターンと比較することにより,石灰岩が形成された時代 の相対的海水準を推定できます.さらに,本石灰岩は放射性炭素年代測定が可能であるため,これら2つの利点を組み合わせることにより,過去の相対的海水準の変化を知ることが可能になります.

過去の研究例と新たな試み

 前杢(1999)は,室戸岬の急激な隆起はプレート境界型の地震によるものではなく,陸側プレート内部の海底活断層型の地震に起因するものであると述べました.前杢(2001)はこれに基づき,室戸岬では約2,800年前に2〜3 m,約1,000年前に4 m前後という急激な隆起が短い期間で起きたことを示しました.しかし,これらの研究では,カンザシゴカイの棲管の化石のみを用いて過去の海水準を求めています.私たちの研究室では,多くの生物化石を検討し,より正確に過去の海水準を決定しようと試みています.これにより,本地域の詳細な地殻変動史を復元できると期待されます.

今までの研究成果

 私たちは,ほぼ同時代に形成されたと推定される隆起石灰岩の岩体に注目し,様々な標高から試料を採取しました.次に,石灰岩の構成要素の量をポイントカウンティング法によって決定し,従来の現生生物の帯状分布データと比較しました.その結果,以下のような点が明らかになりました.

1.石灰岩は主に,フジツボ,貝形虫,軟体動物,カンザシゴカイの棲管,ウニの棘,被覆性コケムシ,サンゴ,被覆性底生有孔虫,底生有孔虫,サンゴモ(藻類),イワノカワ(藻類),セメント,非石灰質砕屑物よりなる.

2.石灰岩の中に陸域で形成されたセメントはほとんど認められない.

3.石灰岩は次の6つのタイプに区分できる.

  タイプⅠ:サンゴとサンゴモに富む石灰岩

  タイプⅡ:サンゴモに富む石灰岩

  タイプⅢ:サンゴモとカンザシゴカイとフジツボに富む石灰岩

  タイプⅣ:サンゴモとカンザシゴカイに富む石灰岩

  タイプⅤ:被覆性コケムシと被覆性底生有孔虫に富む石灰岩

  タイプ IV:軟体動物(カキ)に富む石灰岩

4.エボシ岩付近の石灰岩は下から順に,タイプⅠ,タイプⅡ,タイプⅢ,もしくはタイプⅣよりなる.この石灰岩の垂直分布は古水深指標として利用可能であり,タイプⅠの上限が,石灰岩堆積時の平均低潮位(中潮の際の干潮時の海水準)に一致する.

今後の課題

 今後は,ボーリングによって得られた石灰岩のコア試料を用いて,その内部における6つのタイプの累重関係や空間分布を検討し,本地域の相対的海水準変動を復元する課題に取り組みます.

参考文献

✦ 前杢英明,1999,室戸半島の最近数千年間の隆起様式から推定される新たな南海地震像.月刊地球,号外,vol. 24, p. 76–80.

✦前杢英明,2001,隆起付着生物のAMS14C年代からみた室戸岬の地震性隆起に関する再検討.地学雑誌,vol. 110, p.  479–490.

✦ Iryu, Y., Maemoku, H., Yamada, T., Maeda, Y., 2009, Limestones as a paleobathymeter for reconstructing past seismic activities: Muroto-misaki, Shikoku, southwestern Japan. Global and Planetary Change, 66, 52–64.

 

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