6.COREF Projectに関して
About COREF Project
琉球列島におけるサンゴ礁前線の移動
:北大西洋域での第四紀気候変動に対する高緯度サンゴ礁の呼応の解明
-国際陸上科学掘削計画(ICDP)ワークショッププロポーザル採択プログラム-
我が国が主導的に行なった科学掘削の歴史は,1934年の北大東島サンゴ礁掘削に幕を開けます.それからおよそ70年の時を経た今,私達は新たなサンゴ礁掘削に挑戦します.
プロジェクトの目的と研究背景
サンゴ礁に生息する生物の分布や群集組成は,水温や塩分等のさまざまな環境要因に規制されているため,サンゴ礁堆積物は過去の環境変動の優れた「記録文書」として有用です.したがって,氷床の拡大・縮小により,温暖化・寒冷化や海水準の上昇・下降が繰り返して起きた地質時代である第四紀における熱帯〜亜熱帯の気候や浅海環境の変動を解明するためには,サンゴ礁堆積物は最適の情報源といえます.なかでも,サンゴ礁の分布の北限や南限付近に位置するものは,熱帯低緯度のサンゴ礁の分布の中心域のものに比べ,環境の変化に対してより敏感に応答し,成立・発達・消滅を繰り返したと推定されます.そこで我々は,
1)サンゴ礁の分布の北限・南限(coral-reef front;サンゴ礁前線)の移動の復元に基づく亜熱帯域における気候および浅海環境の変動の詳細な復元,
2)様々な時間スケ-ルの環境変動に対するサンゴ礁生態系の応答の解明,
3)全球的炭素循環におけるサンゴ礁の機能と影響の評価,
を目的とする科学計画を提案しています.
サンゴ礁前線の移動とその規制要因
サンゴ礁の成立限界点付近では,サンゴ礁生態系は気候・海洋環境の変化に反応し,間氷期には海水準の上昇と共にサンゴ礁前線は高緯度側へと,氷期には海水準の低下と共にサンゴ礁前線は低緯度側へ移動したと想定されます.サンゴ礁前線の移動の様式,規模,速度を明らかにすることにより,礁成長を支配する気候・海洋学的境界条件に関する規制要因を解明し,亜熱帯域の気候および浅海環境の変動を捉えることが可能となると考えています.
数千年~十数万年スケ-ルの気候変動に対する造礁サンゴおよびサンゴ礁生態系の呼応
バルバドスあるいはパプア・ニュ-ギニアにおける造礁サンゴ群集の研究では,第四紀を通じて造礁サンゴ群集の組成は大きく変化しなかったことが明らかにされています.これは,サンゴ礁形成域の中心部である低緯度域では,氷期-間氷期の環境変動の度合いが小さかったためだと考えられます.これに対して,サンゴ礁形成域の中では比較的高緯度に位置する琉球列島から,造礁サンゴは分布するものの,礁という構造物を形成するに至っていない非サンゴ礁域である九州にかけての一帯では,造礁サンゴの群集組成が緯度方向に大きく変化することが確認されています.また,造礁サンゴの中には,同一種でありながら,琉球列島と九州で形態が異なるものが存在することが知られています.よって,このような造礁サンゴの群集や形態の差異を指標として,過去のサンゴ礁前線の位置を正確に決定すると同時に,数千年〜十数万年スケ-ルでの気候変動に対する造礁サンゴおよびサンゴ礁生態系の応答を解明したいと考えています.
全球的炭素循環におけるサンゴ礁の機能と影響
沿岸域のサンゴ礁には,全海洋に堆積している炭酸カルシウムの約35~50%が存在しているという試算結果があります.炭酸カルシウムの形成(石灰化)は,二酸化炭素の放出反応であることを考慮すると,氷期-間氷期におけるサンゴ礁の消長が,海洋-大気間の二酸化炭素の吸収・放出を大きく支配していた可能性が指摘されます.このような仮説の検証のため,私達は,氷期-間氷期におけるサンゴ礁の規模や礁の周辺域における炭酸塩堆積物の堆積速度を明確にする必要があると考えています.
どこで掘削するのか?
琉球列島は,第四紀を通じてサンゴ礁の分布の北限が存在し,それが移動を繰り返したというユニークな地理的位置にあります.これまで蓄積されてきた,現世サンゴ礁および第四紀サンゴ礁堆積物に関する豊富なデータに基づき,種子島から与那国島までのさまざまな陸域に分布する堆積物の掘削(国際陸上科学掘削計画;International Continental Scientific Drilling Program. ICDPと呼ばれます)を目指しています.また,将来的には,現在の陸棚に分布すると予想される氷期(低海水準期)の堆積物の採取に向けて,統合国際深海掘削計画;Integrated Ocean Drilling Program. IODPと呼ばれます)を実施することが望まれます.
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