石山達也・今泉俊文・大槻憲四郎(東北大理)・越谷 信(岩手大工)中村教博(東北大理)(50音順)

 

 

2008614日に発生した岩手・宮城内陸地震(Mj 7.2)の震源域である岩手県一関市および宮城県栗原市において,地震断層の有無を確かめるために614・15日に地表調査を実施した.その結果,いくつかの地点で地震断層の可能性がある地表変位を見出したので,その概要を以下に報告する.


 地表変位が確認された箇所は,国道342号線と交差する県道49号線に沿った地域に断続的に分布する(図1;2.5万分の1『本寺』を使用).一関市木立(はのきだち)(地点5)では典型的な地表変位が確認される(図2).ここでは水田に最大比高約50cmの東上がりの小崖地形が出現した(図3).水田は田植え後で元々全面に水が張られていたが,水田のうち相対的に隆起した部分で水が干上がっているのが確認された.水田北端から畦道にかけては水田土壌に衝上断層の構造が見られる一方で,緩い撓曲変形を伴う箇所もある.小崖地形はさらに北側に続き,隣接する駐車場ではモールトラック状の開口割れ目などが認められた.また小崖地形は南に隣接する牧草地に連続し(図4),小猪岡川右岸のコンクリート用壁の破断(東上がりの衝上断層)を経て,県道49号線を横断する.さらに県道南側でも水田を横切る東上がりの小崖地形が認められ上記と同様に隆起側で水田が干上がる様子が確認された.小崖地形は隣接する民家の基礎部分を食い違わせるが,さらに南側では斜面崩壊による崩積土に覆われて小崖地形は確認できない.これらの小崖地形はいずれもその背後に変位と調和的な地すべりなどの斜面崩壊を伴っておらず,ノンテクトニックな要因による地表変位とは考えにくい.

 このような東上がりの小崖地形は,磐井川支流・産女(うぶすめ)川右岸の本寺小中学校の西側(地点1)や,枛木立(はのきだち)北の林道北側の水田(地点3)などに断続的に認められる.個々の小崖地形などの地表変位や.全体の大局的な走向はいずれもおよそN20-30 °Eである.また,東上がりの地表変位の分布は水平に成層する中新統堆積岩類に白亜系花崗岩を境する地質断層(東北建設協会,2006)に沿うように見える

 一方,同市落合,蛇沢沿いの市道では,舗装路面および側溝の圧縮構造を伴う西上がりの小崖地形が見出された.側溝の短縮量は約10cm,上下変位量は約12cmである.このほかに舗装道路の褶曲変形も認められる

 また,小崖地形の上下変位量は、木立で最も大きく約50cmであり,その南北では概して10cm内外と小さくなる.

 以上のような地表変位は本震の震央位置の南西側に位置しており,テクトニックな要因により形成された地震断層である可能性がある.今後より詳細な精査を行ってその性状を明らかにするとともに,今回の地震活動との関連性について慎重に議論する必要がある.

 なお,今回の調査をおこなうにあたり,名古屋大学環境学研究科の杉戸信彦博士に資料を提供して頂いたほか,東北大学大学院理学研究科の鈴木啓明氏には調査資料の整理と準備をして頂いた.ここに記して感謝します.

 

引用文献 東北建設協会,2006,建設技術者のための東北地方の地質,408p.

 

 


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1 今回の調査で見出した地表変位の概略分布図.国土地理院発行の2.5万分の1地形図『本寺』の一部を使用.なお,地形図は昭和57年発行のものであるので,現在発行されている地形図とは道路などの位置形状が異なることに注意.

2 一関市木立(はのきだち),水田を変位させる東上がりの小崖地形の写真.相対的に隆起した部分で水田の水が干上がっていることがわかる.南方を望む.


3 一関市木立,水田を変位させる東上がりの小崖地形北端の写真.人物足元の畦道や右側の水田土壌が明瞭に食い違うことがわかる.さらに右側(南東側)では緩い撓曲変形を伴う.


4 一関市木立にて連続して観察される小崖地形の写真.北方を望む.水田の小崖地形は,南の牧草地および北側の段丘状地形西縁の崖基部に連続する.屋敷林の西端の樹木は今回の地震で傾いた.