断層・地殻力学分野

Research Highlights

[河北新報掲載] 地盤変動予測の独自手法開発

武藤教授・Dhar特任助教らの研究成果が、2023年6月23日付の河北新報に掲載されました。 記事はこちらをご覧ください。


[産経新聞東北版掲載] 地殻変動予測の新たな突破口

Dhar特任助教・武藤教授らの地殻変動に関する研究が、2023年6月9日付の産経新聞東北版に掲載されました。 記事はこちらをご覧ください。


【第24回「環境放射能」研究会 研究会奨励賞受賞】

ランダムフォレスト解析を用いた大気中ラドン濃度変動による地震の先行現象の検出

土谷真由,長濱裕幸,武藤潤,平野光浩 & 安岡由美 (2023).ランダムフォレスト解析を用いた大気中ラドン濃度変動による地震の先行現象の検出.第24回「環境放射能」研究会.

近年地震の先行現象として放射性元素のラドンの研究が進められており,いくつかの先行研究によって地震の前に大気中ラドン濃度が変動することが報告されている. Iwata et al. (2018) は特異スペクトル変換による特異値検出によって大気中ラドン濃度の異常を検出し,地震の先行現象を検討した. しかし,この手法の異常検知はパラメーターの決め方に依存しており,その客観性を評価することは難しい. そのため,本研究ではより異常検知に客観性を持たせる目的で,自動計算で予測結果を得ることができるランダムフォレスト解析を行った. 大気中ラドン濃度において,特に大地震の発生していない期間を平年変動として,この期間を教師データ,それ以降の期間を予測データとした. 教師データを学習させることで,平年変動から求められる大気中ラドン濃度の予測値と実際の観測値を比較した. 予測値と観測値の比較には,それらの差分や決定係数を使用した. 福島県立医科大学では2002年から2007年を教師データ,2008年から2011年を予測データとし,神戸薬科大学では1984年から1989年を教師データ,1990年から1995年を予測データとした. 説明変数は観測された年月日である. 解析では教師データのうち7割を無作為に抽出して予測モデルを作成し,残りの3割のデータの予測値を求めて観測値と比較して決定係数を計算することで予測精度を求めた. この予測モデルを用いて,各観測地点の予測データの期間中の大気中ラドン濃度を予測して,決定係数を求めた. 福島県立医科大学では2011年において決定係数の値が予測モデルから顕著に低くなった. さらに観測値と予測値の差の標準偏差を求めたところ,2010年末に標準偏差の3倍を超えていた. 神戸薬科大学では,1994年末から1995年始めの予測値を観測値が大きく上回っていた(図). また1994年末には,観測値と予測値の差は標準偏差の3倍を上回った. このことから,以上の時期に大気中ラドン濃度は平年変動とは大きく異なる変動をしていたことが明らかになった. 以上から,ランダムフォレスト解析による大気中ラドン濃度の予測は,地震の先行現象としての大気中ラドン濃度変動を客観的に検出ができる可能性が明らかになった. これを用いることで,地震の先行現象を捉えて地震の予測に活用できる可能性がある.

【引用文献】Iwata, D. et al. (2018) Non-parametric detection of atmospheric radon concentration anomalies related to earthquakes. Scientific Reports, 8(1), 1–9.

図:神戸薬科大学の予測結果(上)と観測値と予測値の差分(下)


2011年東北沖地震の余効変動が明らかにした東北日本島弧ー海溝系の不均質レオロジー

2011年に発生した東北沖地震は、世界の巨大地震の中で最もよく記録された余効変動をもたらしました。陸・海上のGNSS観測点の全国ネットワークによって捉えられているこの余効変動は、日本列島の下にある粘弾性マントルの応力緩和が大きな要因になっています。 岩石物理学の実験や地球物理学的な観測から、日本のマントルウェッジの周囲状態やそれに関連するレオロジーの不均質性を示していますが、10年にわたる余効変動におけるこれらの役割についての理解はまだ不十分です。 ここでは、過去数十年間に報告された20以上の余効変動モデルによって推測された複数のレオロジー不均質特性をまとめました。さらに、マントルウェッジ、海洋性アセノスフェア、火山フロント下の低粘性帯の深度依存性のレオロジーなど、個々のレオロジー不均質性の寄与を明らかにするために、いくつかの合成モデルを用いました。 我々は、地震後の鉛直成分の変動観測が、地下のレオロジーの複雑性を解明する鍵であることを実証しました。より広い垂直変形パターンは、背弧と前弧の間の主要な粘性コントラストを明らかにし、より小さい数10kmスケールでの沈降は火山帯に関連する低粘性体の存在を反映します。 本レビュー論文では、粘弾性地球の3次元不均質レオロジーの展望を紹介します。これらのレオロジー的不均質性は、沈み込み帯地震サイクルの異なる段階の理解とのギャップを埋めるために重要な役割を果たすと考えられます。

Dhar, S., Muto, J., Ohta, Y. & Iinuma, T. (2023). Heterogeneous rheology of Japan subduction zone revealed by postseismic deformation of the 2011 Tohoku-oki earthquake. Progress in Earth and Planetary Science, 10, https://doi.org/10.1186/s40645-023-00539-1.

図:(左)2011年東北沖地震後の10年間の余効変動、(右)変動観測によって実証された東北日本地下の不均質レオロジー


表面帯電機構による地震電磁気現象を支える表面電荷密度の推定

地震が発生する前に観測される電磁気異常現象(たとえば、発光現象や電磁放射)は、地震を短期予測する上で重要な前兆現象であるとして注目を浴びています。この現象は、地下にある岩石が受ける力(応力)やそれに伴う微小破壊を原因として生じる帯電や電流を起源として発生すると考えられています。Takeuchi and Nagahama (2002Physics of the Earth and Planetary Interiors) は、地殻岩石に豊富な石英や花崗岩の様々な変形実験後の表面電荷密度(地震電磁気異常現象の大きさを評価する指標)を計測し、断層すべりに伴う破壊が生成する、電荷を捕獲した欠陥(電荷捕獲欠陥)が帯電を引き起こす可能性があることを報告しています。しかし、断層すべりの破砕により生成される電荷捕獲欠陥から表面電荷密度を直接見積もる研究は今まで行われていませんでした。 本研究では、断層すべりに伴う破砕を模擬した天然石英粒子の低速摩擦実験を行い、実験前後の試料に含まれる電荷捕獲欠陥(特に、E1’ 中心: -を共有結合、●を不対電子として “≡Si●” で表される)を、電子スピン共鳴法を用いて直接計測しました。実験後の電荷捕獲欠陥数から見積もられた表面電荷密度は、先行研究で算出された電荷密度と同程度でした。これは、電荷捕獲欠陥の生成量が、地震電磁気異常現象の1つである異常電磁場や発光を引き起こすのに十分であることを示しています。以上の結果から、地震電磁気異常現象は、電荷捕獲欠陥を起源とした帯電メカニズムを介して発生する可能性があることが示唆されました。

Tanaka, K., Nagahama, H., Muto, J., Oka, T., & Yabe, Y. (2022). Estimation of surface charge densities supporting seismo-electromagnetic phenomena through the surface charging mechanism. Physics and Chemistry of the Earth, Parts A/B/C, doi: 103137,10.1016/j.pce.2022.103137.


2011年東北地方太平洋沖地震後の変形から推定される島弧沿いの不均質なレオロジー

日本前弧域は、2011年東北地方太平洋沖地震によって引き起こされた巨大な応力摂動に対して、地震後の変形を調節する重要な役割を担っている。日本列島の緻密な測地観測により、沈み込むプレート境界での余効すべりとマントルウェッジ内の粘性変形の相互作用が明らかになり、詳細な数値モデルにより前弧域のレオロジーについてさらに深い洞察が得られるようになった。最近の研究では、東北日本沈み込み帯の前弧域のマントルに停滞部が存在することが明らかになった。ここでは、日本列島を横切るマントルウェッジ停滞部(コールドノーズ)の島弧に沿った変動を調査した。福島-新潟地域の測地線に沿って新たに設置された測地網を利用し、主破壊域に近い宮城-山形地域の測地線の表面変形パターンと比較する。変位場とその時系列を含む測地観測をシミュレートするために、実験で得られた岩石の構成則に基づく3次元レオロジーモデルを提示する。その結果、前弧域のマントルのレオロジーに島弧に沿った不均質性があることが示唆された。具体的には、宮城地域では狭いコールドノーズが、福島の前弧域では広いコールドノーズが見いだされた。この前弧域の変動に関する測地学的な推測は、浅い地震に対するカットオフ深度の島弧に沿った空間的不均質性、および宮城地域と福島地域のそれぞれの地熱勾配の比較測定と一致している。

Dhar, S., Muto, J., Ito, Y., Miura, S., Moore, J. D., Ohta, Y., & Iinuma, T. (2022). Along-arc heterogeneous rheology inferred from post-seismic deformation of the 2011 Tohoku-oki earthquake. Geophysical Journal International, 230(1), 202-215., doi: 10.1093/gji/ggac063.

図: (a) 宮城測地線と (b) 福島測地線下における規格化した全歪み。 全歪みは、5.2年間の粘性歪みを地震時の歪みで割ることで与えられる。


[東北大学理学部MAGAZINE掲載] 2018年大阪府北部地震に伴う地震前の大気中ラドン異常について

詳しくはこちらをご覧ください。

Muto, J., Yasuoka, Y., Miura, N., Iwata, D., Nagahama, H., Hirano, M., ... & Mukai, T. (2021). Preseismic atmospheric radon anomaly associated with 2018 Northern Osaka earthquake. Scientific reports, 11(1), 1-8., doi: 10.1038/s41598-021-86777-z.


[EMSEV award during EGU 2021] 和歌山県南西部における非火山性地震群活動に対する潮汐の影響の統計的解析

地震は断層のひずみが蓄積したときに発生する.潮汐応力のような外部作用による応力変化が地震発生のトリガーとして働く可能性があることが報告されている.今回分析を行った地域は,浅発地震が継続的に発生している和歌山県北西部である.地震と潮汐応力の相関を統計学的に調べるSchuster検定と呼ばれる手法と潮汐応力の計算により分析を行った.分析の結果,地震は月の半日周期に近い周期との相関が高くなっていた.この相関の時間的な変化を分析したときに,潮汐応力との相関は,地震数とともに変化し,地震数が増加しているときに高くなっていることが分かった.潮汐応力計算の結果,この地域のマグニチュード4以上の地震については,垂直応力が最大となった直後や減少しているタイミングに偏って分布していることが分かった.そのため,潮汐との相関の分析は岩石の破壊への臨界性や,地震発生の時間的な不均質性についての情報を与える.

Machida, K., Nagahama, H., & Muto, J. (2021, April) Statistical analysis of tidal effect on non-volcanic earthquake swarm activity in Wakayama Prefecture, southwest Japan. In EGU General Assembly Conference Abstracts (pp. EGU21-13890)., doi: 10.5194/egusphere-egu21-13890.

図:相関の高い周期(T=12.85 hr)と地震数(Mw>2)の時間的な変化. 時間窓は3年. 黒線:地震数(Mw>2)の変化. 赤線: Schuster検定の確率の変化(値が小さいほど相関が高い).


少量の水を含むゲルマニウムかんらん石の歪みによる部分的蛇紋岩化現象

海洋プレートに存在する蛇紋岩の主要構成物質である蛇紋石は含水鉱物であり、地下60-300 kmで発生するやや深発地震を引き起こす鉱物の1つと考えられています。しかしながら、高密度の海洋プレートの内部にどれだけの水が浸透し、かんらん石と反応して蛇紋石を作るかは明らかにされていません。そこで、限られた水の量でも蛇紋石が形成できるかどうかを調べるために、通常のシリケイトかんらん石のアナログ物質であるゲルマニウムかんらん石を用いて変形実験を行いました。結果、サンプルに地震を引き起こさない安定したすべりが発生し、透過型電子顕微鏡分析によって、断層に沿ってゲルマニウム蛇紋石の細粒な板状粒子が観察されました(図)。フーリエ変換赤外分光法分析では、蛇紋石に由来するピークがサンプルの広範囲に見られました。この結果は、海洋プレート内部のかんらん石が差応力下で極少量の水により蛇紋岩化することを示唆しています。

Sawa, S., Miyajima, N., Muto, J., Nagahama, H. (2021) Strain-induced partial serpentinization of germanate olivine with a small amount of water. American Mineralogist, doi: 10.2138/am-2021-7735.

図:断層上に存在するゲルマニウムかんらん石と板状のゲルマニウム蛇紋石. 左図は対応する電子線回折パターン


Griggs型装置で変形されたゲルマニウムかんらん石と輝石の微粒子集合体の歪み局在化バンド

歪集中帯は周囲の岩石と空隙率や透水率が異なるため、岩盤へのCO2貯留や地下水浸透を理解する上で重要です。歪集中帯は天然や実験において、脆性塑性遷移領域に相当する圧力で変形した空隙率の高い砂岩によく見られます。しかしながら、非常に細粒な実験試料で歪集中帯が観察された例はありませんでした。そこで、数ミクロンサイズという細粒なゲルマニウムかんらん石を用いて実験を行ったところ、数百ナノサイズの粒子で充填された数多くの歪集中帯が見られました(図)。透過電子顕微鏡で歪集中帯を観察した結果、変形によって生じた転位(結晶の面欠陥)に沿って粒子が破壊し、歪集中帯が形成されたことが明らかになりました。歪集中帯の形成には粒径は特に関係がなく、岩石の空隙率と変形圧力が重要であることを示唆しています。

Sawa, S., Muto, J., Miyajima, N., Shiraishi, R., Kido, M., Nagahama, H. (2021) Strain localization bands in fine-grained aggregates of germanate olivine and pyroxene deformed by a Griggs type apparatus. International Journal of Rock Mechanics and Mining Sciences, 104812, doi:10.1016/j.ijrmms.2021.104812.

図:数百nmサイズまで破砕された鉱物で充填された歪集中帯


電子スピン共鳴(ESR)法を用いた断層年代推定法

多くの物質に存在する欠陥(原子配列の乱れの一種である空孔や不純物など)には、不対電子を捕獲したものがあり、電子スピン共鳴(ESR)測定という量子化学的手法により計測できます。本論文では、地殻岩石中の石英粒子に含まれる欠陥に捕獲された不対電子(捕獲電子)に着目したESR断層年代推定法に関する過去の研究をレビューしました。 この手法は、天然放射線被爆により岩石中の石英粒子に生成された捕獲電子が地震時になくなる(ゼロイング)ことを仮定し、断層の最新活動時期を見積もるものです。しかし、ゼロイングが実際に起こるかどうかは実証されておらず、そのメカニズムや発生条件も未だ明らかではありません。そこで、これまでに、天然断層から直接採取した石英粒子や断層運動を模擬した実験を行った石英粒子のESR測定が行われ、断層面に近いところにある石英粒子ほど捕獲電子数が減少していることや、ゼロイングには断層すべりに伴う粒子への応力効果や摩擦発熱が関与する可能性があることが明らかにされてきました。しかし、天然断層における完全なゼロイングは実証されておらず、ゼロイングを引き起こす断層運動の力学条件およびそのメカニズムの詳細はわかっていません。今後は、これらを追究することが重要な課題となります。

田中桐葉, 武藤 潤, 長濱裕幸 & 岡壽崇. (2020). 電子スピン共鳴(ESR)法を用いた断層年代推定法. 放射線化学, 110, 21-31.


低速回転せん断装置によるESR強度に及ぼす破砕の影響

断層活動性は、主に、断層の上に載った地層を用いて評価されていますが、その地層が欠如している場合は他の手法が必要となります。そこで、電子スピン共鳴(ESR)法を用いた断層年代測定法が注目されています。ESR法とは、物質中の欠陥の捕獲された不対電子を検出する手法で、その電子数はESR信号強度として表現されます。ESR法を用いた断層年代測定法では、断層内物質に含まれる石英中のESR信号強度が地震後に0になること(ゼロイング)を前提とし、過去の断層活動年代を推定します。しかし、ESR信号のゼロイングの理解は未だ十分ではありません。 地震時の断層運動における素過程の1つである岩石・粒子の破砕は、石英中に見られるESR信号(例えばE1’ 中心、≡Si・、–:共有電子、・不対電子)をゼロイングすると報告されていました。しかし、これは、摩擦実験中に試料に混入した変形治具の摩耗物がESR測定の感度を低下させたことで起きた可能性がありました。そこで、石英粒子の破砕とESR信号の関係を明確にするため、模擬断層ガウジの低速摩擦実験および摩擦実験中に混入した摩耗物がESR測定に及ぼす影響を調べる分析を行いました。その結果、石英中のE1’ 中心の信号強度は剪断変位に伴う石英粒子の粉砕の進行に伴い増加し、Peroxy 中心(-Si-O-O・)やOH中心(O3-)の信号強度は変化しないことが明らかになりました。これは、石英粒子の破砕以外の素過程にゼロイングの要因があることを示唆しています。

Tanaka.K., Muto, J., Yabe, Y., Oka, T. & Nagahama, H. (2020). Effect of fracture on ESR intensity using a low-velocity rotary shear apparatus. Geochronometria. doi:10.2478/geochr-2020-0035.

図:Fig. 10 in Tanaka et al. (2020). The relationship between ESR intensity of E1’ centre and displacement is shown in various studies including our study. Red circles and blue squares are this study and Hataya and Tanaka (1993), respectively. On the other hand, blue open triangles and diamonds are Tanaka (1987) and Yang et al. (2019), respectively. Red solid and dot lines indicate a linear approximation curve and a saturation curve calculated by least squares method, respectively.


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